外部空間における様々な「装置」の調査研究プロジェクト


by nagahama-lab

かんぽ・ひろば【カンポ広場】

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世界で一番美しい広場。
そう呼ばれるのは、イタリア・トスカーナ地方のシエナという町にある「カンポ広場」である。昨年の初夏に休暇を利用して、車でローマからフィレンツェにかけて山岳都市を巡った際に訪れた町のひとつである。中世のたたずまいを今なお色濃く残すこの町は、金融都市として繁栄し、世界最古の銀行の本店やシエナ大聖堂などがその繁栄の証しとして現存している。
シエナの町は、地形的に3つの尾根筋が、ひとつの交点を中心として放射状に広がるかたちで広がっている。その交点となる位置にカンポ広場はある。有名な扇形をした広場の形や傾斜は、もともと尾根と尾根の狭間に作られた自然の地形を生かした広場であったことによるらしい。ともあれ、プブリコ宮殿(現市庁舎)とマンジャの塔に向かって、すり鉢状にゆるやかに傾斜する広場では、多くの人々が、腰を下ろしたり、寝そべったりしながら、思い思いのゆったりとした時間を過ごしている。その風景は、赤レンガ敷きの都市広場であるにもかかわらず、緑の丘の上で人々がくつろぐ風景を彷彿させる。それは、8本の白い大理石のラインによって強調されたすり鉢状の形態が、その場の人々を優しく包み込み、自然で穏やかな空間を作り出しているからだと思う。
目線を上げてみると、広場の周囲は、小さな柱のある美しい飾り窓の5~6階建ての建築群に取り囲まれている。その低層階には、バール、ピッツェリアなどの飲食店やお土産物などの商店が軒を連ねていて、広場に賑わいと活気を与えている。広場に張り出した大きなテントの下では、地元の人々や観光客が、名物のシナモンやチョコレートのお菓子とカプチーノを味わいながら、ゆったりと広場を眺めている。驚くことに、この広場では毎年夏に、「パリオ」と呼ばれる伝統行事、シエナの各地区対抗の競馬大会が開催される。赤レンガの広場に土を持ち込み、一時的な馬場を作り、中世の衣装をまとった騎手が競技を行う。当日の広場は超満員となり、熱狂と歓声に包まれる。まさに、この広場は、日常的にも非日常的にも「都市の劇場空間」となっているのである。
このイタリア旅行で興味深かったのは、イタリア人の町の使い方である。中世以来の伝統的な建物や広場を、ことさら後生大事にするのではなく、さりとて粗末に扱うわけでもなく、それらにきちんと敬意を払いながら、今の時代のスタイルを持って使いこなしている。現代的なデザインのイタリア車が、中世さながらの裏通りに停めてあっても違和感を覚えないことが印象的であった。彼らの中で、中世から現代に至るまで、生活に対するデザインが脈々と連続していて、一貫した感性を頑固なまでに持ち続けていることがそうさせているのだと思った。カンポ広場も、観光客にとっては歴史的な遺産であるが、しばらくその場所に身を置いていると、自分自身の暮らしの場のひとつのように思えてくる。その魅力こそが、「世界で一番美しい広場」と呼ばれる本当の理由のような気がした。(文と絵:澤木光次郎 OSOTO v.06 掲載)
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by nagahama-lab | 2009-11-11 18:42 | 外部空間装置|か行