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外部空間における様々な「装置」の調査研究プロジェクト


by nagahama-lab

ろっぽんぎ・ひるず【六本木ヒルズ】

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もう20年程前になるだろうか、新幹線の車窓からはじめて眼にした東京タワーは、意味もなく、ここがトウキョウであることを誇らしげに印象づけていた。その後、新宿、渋谷、青山などお決まりのトウキョウ見物を繰り返したものである。しかし、ほとんどの場所が、子供の頃からCMやドラマで見たことのある風景だった。はじめて訪れたはずの街の風景が、懐かしい風景として、突然、眼の前に姿を現す。新宿の高層ビル街や渋谷のスクランブル交差点にいたっては、上空からの景色まで知っている自分がいることに気づかされる始末だ。
この映像化された街・トウキョウの中で、なぜか「表参道」だけは、唯一といっても良いほど、ホッとさせてくれる風景をもつ街だった。ケヤキ並木沿いには、ファッションブランド店や当時珍しかったオープンカフェ、部分的にコンバージョンされた古めかしいアパートメントなどが雑居して並んでいた。歩道では、ジェラートを食べながらおしゃべりをしている女子高生たちや怪しげなグッズを売る露天商、戦争反対を訴えながら募金を請う若者など、こちらも雑居して並んでいた。これらの街の風景が、ケヤキの大きな傘に包まれるように広がっていて、それぞれが“サマ”になっているのだ。街の暖かみと洗練された雰囲気のバランスがとても良い緩やかな坂道の風景をもつ街であった。
数年前になるが、「六本木ヒルズ」を見物に行った。上空からの様子は、ニュースなどでよく知っている街だ。ガイドブックでは、東京の新しい観光名所だという。超高層の建物は海外の建築デザイナーが、広場や道路はランドスケープデザイナーが、徹底的にデザインしたらしい。デザイナーズ・マンションならぬデザイナーズ・タウンとも呼ぶべき、街自身が巨大ブランド品なのである。複雑な街を少し迷子ぎみに徘徊していると、なぜか楽しくてなってきて興奮気味になってしまう。ちょっと息抜きにと外へでてみたが、日本庭園があったり、イベントで賑わっている広場があったりして、息つく暇もない…。と思いつつ歩いて行くと、「六本木けやき坂通り」という目抜き通りにでた。ケヤキ並木、坂道、沿道の有名ブランドショップ。「表参道」と同じ構成である。こちらには、舗装やアートなベンチ、照明など凝ったデザインが施されているのだが、出来立てのよそよそしさも手伝ってか、「表参道」のような街の趣きを感じることはない。ふと振り返ると、新しくデザインされた建物群や広場が折り重なるように僕の方へと迫ってきて、少し恐い感じがしてしまう。いったい何が違うのだろうか?と考えながら、麻布十番に向かってその坂道を下っていく。下町の商店街を歩きながら、「表参道」と同じような暖かみをそこに感じて、なんとなく気づく。「六本木ヒルズ」では、街に“時間”がないのだ。日本庭園があって、古いものもあるように思えるが、それを覆いつくして余りある“新しいもの”だけでつくられているのだ。「表参道」には、古いもの、新しいもの、古いものを活用したものが雑多にあり、そのちょっとした時間のズレをもつ新旧の混ざり具合が、洗練された暖かみを街に醸し出しているのだ。
「六本木ヒルズ」もこれから時間を経て、街が移り変わって行くのだろうが、大規模再開発という一時にリセットされた街が、どうなるのかは僕には予測もつかない。ただ、大正期に明治神宮の参道としてつくられ、その後、時代の変化と共につくり上げられてきた「表参道」という街との時間感覚の違いを埋めることができるのだろうか?という疑問だけは残る。しかし、ここ数年、その「表参道」にも、有名建築家の建物が立ち並び、徐々に「六本木ヒルズ」化しているのは皮肉なことである。その影響からか、「ウラハラ」や「キャットストリート」と呼ばれる裏通りのほうへと僕の好きな「表参道」が追いやられていっている。結局のところ、トウキョウという街は、風景を消費しながら成長していく、巨大ブランド品としてのデザイナーズ・タウンなのかもしれない。(文と絵:澤木光次郎 OSOTO v.00 掲載)
by nagahama-lab | 2009-11-11 18:00 | 外部空間装置|ら行